[第1回スペシャル]

ぶどうの家・総合施設長 武田直樹(52歳)


ー2025215日ー

はじめに

この企画は、代表取締役である津田由起子が、「ぶどうの家」に勤務する職員等に直接インタビュー方式で問いかけ、なるべく本音を導きだし、その声々からこのHPを訪れてくれた方々に「ぶどうの家」をより身近に感じていただこう。更には、職員間で各個の介護感を知り、お互いをもっと認め合おう。そんな基本コンセプトで立ち上げた企画。

 

 

ただし、今回はスペシャルと銘打っており、それは第1回だからというだけではなく、武田直樹の独り語り的な要素が多分にあることからスペシャルを付け加えさせてもらった。

組織論

いよいよ本編に突入する。

津田、武田、野田で、記念すべき第1回をどのように進めるべきか?を、模索していた。
場所はBRUNCH

なかなか、これだ!という方向性が見つからないまま時間だけは経過していたのだが、突然、武田が白板に「全職員の権限と責任の度合いを、例えばの数値で表すとと文字を記入し始めた。そこには縦列で

 

 津(津田)10 

 武(武田) 8

 管理者   7

 リーダー  5

 介護etc   3

 *数字は、各役職が持つ権限と責任の度合いの比率。

( )は野田が記入

 

とあった。ここからは武田が武田流組織論を展開する。

 「ボクの中での組織論っていうのがあるんです。で、常々言ってるのが、津田由起子という代表がいて、その下は全ての職員がイーブンという状態なんですよ、今の「ぶどうの家」は。これはね、津田自身が望んだものなんです。『ざっくばらん』というすごく曖昧な言葉と姿勢で。

彼女はね、誰が上だ、誰が下だ、ということを嫌うんですけどね、縛りをなくしたいんでしょう。ただし、これを本当の意味合いで職員たちが認知しているかと言えば否なんですよ。

今、「ぶどうの家」では組織分裂的な兆しがあるな、ということがボクにはよく見えてきたんです。

例えば、「ぶどうの家」でのヒエラルキーはこうなっているんです(武田が縦列を示しながら)。トップに津田がいて施設長がいてという風に。

津田は気さくに一般の介護員とも話し、直に指示を出しますから介護員も気軽に津田へ話しかけるようになるんです。悪いことではないんですが、でもね、ここで一般の介護員が勘違いしてしまうんです。津田と同等の立ち位置にいるかのように。となると、リーダーや管理者という役職を飛ばして直接、津田に情報・意見や苦情も含め、上げようとすることが起きるんです。

ボクはね、津田には良い意味で『ざっくばらん』に内心を包み隠さずぶつけます。当然ですよ。ボクには、それを言う権限と責任があるからです。

『売り上げがこれだけだから、会社の取り分はこれだけ』

なんてことも言います。この権限はボクにしかありませんから。

 


ところが、権限と責任を背負って津田に意見具申しているのに、彼女、彼等は自分の立ち位置を誤解しているものだから、

『なんで武田さんは、あんな過激に津田さんに文句言ってるん?』

っていう風になってしまうんです。

ボク個人は嫌われようが構わないんです。嫌われることも職責の一端だと覚悟していますから。
ここで、こんな過激なトークをしているのも、この企画内で今後トークする職員たちが、

『嗚呼! ここまで『ざっくばらん』に本音を出しても良いんだ』

ということを知らしめたいという前提もあるんです。そして、自身の立ち位置を改めて明確にして欲しいと言うことが念頭にあります。

津田もボクも、本当に一生懸命なんですよ。「ぶどうの家」を良くするために。

話がズレてしまいました。一例を上げます。

何かしらを実現するためにやらなければならいことがあるとします。そこに権限が発生し情報が生まれます。
情報を介護員はリーダーに上げなければなりません。リーダーは、自分の采配・権限によって決定権がないのであれば、その情報を持って管理者に上げる。管理者に決めることができないことであれば総合施設長である武田に上げる。これが組織というシステムなんですよ。

 

ところが、この意識付けが徹底されてないが故に、介護員でもリーダーや管理者を飛び越えて津田に直接、情報を上げてしまうんです。リーダーたちは面子丸潰れですよ」

武田の説明は舌鋒鋭く、容赦ない。理論武装もシッカリしており、稀に、私には意味不明の語彙も聞こえてくる。とはいえ、そのまま文字起こし状態では読みづらいので分かりやすく編集はさせてもらっている。

組織論は、まだまだ続く。(野田)

 

「介護員からゴミ出しの回数を、今の週2回から週3回にしたいんだけど? とボクに言ってくるとします」

 

ここで、武田は津田に質問する。(野田)

 

「あなたなら、どう応える?」

津田が答える。

「管理者に相談したら?」

 

「ボクは違います。あっさりしてますよ。『ゴミ出しの権限はあなた達にもあるから、あなた達で決めろ』と。
自分たちが持つ権限と責任を明確にしてあげれば、こんな問い掛けは出てこないんですよ。

 だけど、権限を超えてる場合。『ゴミ出しの業者を変えたいんですが?』と介護員が考えたとき、これは決められないからリーダーに上げよう、となるのが定石です。

自分で決められること。自分で決められないこと。このルール設定が曖昧だからお可笑しなことになるんです」

ここで津田から納得の声が入る。しかし、武田はバッサリと切り捨てる。(野田)

 

 

「『この曖昧さを生んだのは津田由起子さんですよ。だからボクは、あなたに情報提供してるんじゃないですか?』と言うでしょ。すると職員から『武田さんはなんて酷いことを言うわけ』と批判されてしまうんですよ。でも、ボクしか言えないし、津田への情報提供はボクの責任でもあるんですから。

でもね、ここで『武田さんはなんて酷いことを言うわけ』に対して、津田が同調してしまうことがあるんです。すると、もうボクの思う正しい組織ではなくなるんですよ」

 

 

 

ーーここで改めて「津田由起子と天晴れ本音トーク(仮題)」

この企画の意味と重要性について武田から口を開いた。武田の覚悟が良く理解できる。(野田)

 

 

「皆ね、介護職員として働いてますけど、介護がしたくて働いている職員がどの程度いるのか? ということがこのインタビュー形式で明らかになる気もしています。答えの中に出てくるとは思いませんが、ヒョットすると『職種として楽かと思って入職した』という声が飛び出てくるかもしれません」

「それは出てこないよ。思ってても」(津田)

 

「うん、確かにね。だけど、ボクがここで過激に喋ることで、『ここまで本音で語って良いんだ!』と職員の緊張感が緩み、タガが少しでも外れてくれれば津田と職員間のトークの内容もより一層に充実するじゃないですか? 
そうであるなら、ボクはいくらでも本音と真実を過激でも赤裸々に喋りますよ。

 

でもね、そう言えるのはボクの唱える組織論が前提にあるからですよ、という話です。

 

ボクは立場的に、そういう部分も伝えなければいけないという役目と責任があるんですから」


ーーーーここで津田が、どう表現すれば良いんだろう?
染み染みと、ちょっと吹き出しそうに武田の立場を思いやった。(野田)

 

 

「もう本当に、それは大変なんだよね。私にもこうやって言いたい放題言うし、職員にもそうとうキツイことを言うし、一番嫌われているのが武田なんです。私からも嫌われる。下からも嫌われる。全く立つ背がない、という立ち位置なんです(津田がここで、やっと大笑いし満面の微笑み)」

 

 

「良いんですよ。それで良いんです。ボクのポジションはそれで全く問題ありません。組織で働いてきたことがある人であれば、それは良く分かることかなあ! と承知してますから。

「ぶどうの家」ではね、『津田さーん』って職員までが言うんです。考えてみれば、大規模施設を抱える社会福祉法人下であれば、そんな事象は起こらないでしょうね?」

 

 

ーーーーここで、『津田さーん』の経緯について津田が語る。(野田)

 

「それはないでしょうね。でも、それは「ぶどうの家」が3人から始まって、ちょっとづつ人が増えていって今の形になった。だから、そうなっているだけ。歴史を振り返れば、私のここでの始まりは、気持ちは異なったけど事実上はボランティアだったんだよね。そこから始まって法人格が必要となり、結果、父の会社を私が引き継いだ。という経緯。

 

で、ここからは社長。だけどね、私は社長は嫌だった。社長ではないと自分にも言い聞かせたし、周囲にも『社長とは呼ばないで』と伝えたんだよね。

 

というのも、正直なところ、社長という立ち位置に覚悟ができなかったんよ。自分でこういう事業所をやる、という覚悟が湧き出てこなかった。でも、介護保険が始まり、事業を拡大し、利用者も増え、職員も増えて行くうちに背負うモノもドンドンドンと重くなる過程で、

 

『嗚呼! 私は代表なんだ、社長なんだ』という自覚が芽生えはじめたんだよね。

そういう歴史と過程があって、変化があったからこそ、多分、津田さんと呼ぶんよ」

 

 

「津田は組織で上役として働いたことがないのに代表から始めているじゃないですか? 

ある意味、個人事業主で大勢の従業員を雇うことになったこともあって、津田の中には組織論が全くないんですよ。

 

始まりの三人だったら全員に手が届く位置で仕切ることができるんだけど、これが段階を踏んで遠く遠くまで職員が行っている今、こうなってくると、ちゃんと『並びなさい!』と号令を掛けなければならないんですよ。

だけど、津田はそれを知らないだけなんですよ」

ーーー津田が反応する(野田)

 

「組織には7年ほどお世話になったけど、この間は一般職員に過ぎず役職とは縁がなかったからなあ!」

 

組織論が際限となく続いていく。武田に言わせれば、5回でも6回でも続けても構わないという勢い。
とはいえ、そろそろ締めに入ろうと思うが、一つ、気に掛かる会話があるので付け加える。(野田)

 

僕が思うのは、結局、津田由起子自身が職員になにを伝えたいか? というところを伝えないまま、雰囲気で悟れよ分かれよ。私の背中を見て介護を覚えろよって言うんだけれど……

 

ーーーここで津田が武田の言葉を遮り明確に応える。(野田)

 

「それ それ。それは間違ってたんよ」

 

「だけど、間違っていたということを職員に伝えてないじゃないですか? それがダメだって言ってるんです。間違ってたら間違えてましたって認めることが大事なんだってことを職員に教えてあげないと。立場がある人が、それをすることは重要だから。」

 

 

 


ここまでのやり取りの最後に武田が大切にしていることを言葉にしてまとめた。

 

 

 

「色々キツイことや反対意見的なことばっかり言いますけど、最終的には津田が『こうして下さい』と言えばハイと言って従います。それは本当に最初から一貫して通してきたし、守ってきたこと。だって全権は津田にあるし、津田の想いを組んでカタチにすることが自分達の役目だから。」

最後に!

録音時間は1時間12分。武田の勢いは止まらなかった。ここに掲載されいない興味深い話題も多々あるのだが、武田直樹の組織論の一部を、本当に一部のみを掲載して閉じることになる。

 

しかし、「ぶどうの家」のトップとNo.2が、これほどまでに激しくやり合っていることなど身近にいる職員方々にでも想像できないだろう。一生懸命なのだ。

私も途中、

「ここまで言わなくても良いのになあ!」

と少々困惑しながら聞いていたが、武田は徹底していた。権限と責任において。

 

私は、ケアワークフォトライター(介護最前線に出向き、写真を撮り文章を書いている)として施設介護、在宅介護の多くの現場に足を向けてきた。それを新聞・雑誌に載せた。

 

実母の認知症在宅シングル介護は10年にも及び、それ以前の父の介護で初めてオムツ交換を経験した。そんな経験から、自分の心には鬼畜が存在することを認めざる得ないほどに苦しんだ。つまり虐待者でもある。介護鬱も経験した。

 

そんな立ち位置から見た二人は凄かったが、在宅介護者の視点から見れば、

「こんなトップたちがいる施設に身内を預けるなら安心だなあ!」

 

さて、次回からは基本の立ち位置で進めることになる。

津田がインタビュアーで、職員に介護感などを問うという形式で。

お楽しみに!


(野田明宏)